水晶の舟 <UNDERGROUND SPIRIT 20 - 遠雷> (吉祥寺 シルバーエレファント/2025年5月24日 ![]() 東京・阿佐ヶ谷拠点のサイケデリック・ロック・バンド水晶の舟の企画ライヴ、 <UNDERGROUND SPIRIT 20 - 遠雷 >を観てきた。 2007年に他界した米国のMatt Zaunに捧げたライヴで (注:数日前に彼を含むセッション音源のデジタル・リリースが行なわれている)、彼にまつわる歌の数々を中心に進めるセットリストになった。 紅ぴらこ(vo、g他)、影男(g、vo他)、松枝秀生(b他)という水晶の舟のメンバーに加え、Matt Zaunとゆかりの深い志村浩二が全編ドラマーを務めたのも貴重なステージであった。 志村は1991年以降の後期WHITE HEAVENのベーシストのイメージも強いが、現在活動中のみみのことやMAINLINERをはじめドラマーとして知られ、CD『Psychobomb -U.S. Tour 2000-』で聴ける末期HIGH RISEでも叩いていた。 というわけで期待感いっぱいで足を運び、果せるかな、否、期待を百万光年も上回るグレイトなパフォーマンスだった。 ドライヴするオープニング・ナンバーの「おまえの涙(Your Tears - Drop From The Sky)を筆頭に、“歌もの”がメインだったとも言える。 前髪を揃えたヘア・スタイルも相まってますます童女のような佇まいのぴらこは、感情の震えをたたえるがゆえに楽譜をなぞるヴォーカルとは一線を画しつつ、たおやかなストロング・スタイルの“ぴらこ流儀”のしっかりした歌唱で観客を包容。 この公演の“テーマ”のMatt Zaunについて言及するなど水晶の舟のライヴとしてはけっこう饒舌な“トーク”を絡め、プレイ中はあまり観られない笑顔をステージ上で“目撃”できたのも激レアと言えよう。 影男が悠然と渋い喉を震わせてリード・ヴォーカルをとる曲も絶妙のアクセントだった。 むろん歌メインのお馴染みの曲が中心といっても水晶の舟のライヴは毎回違う。 多彩な打楽器や横笛などを含むインプロヴィゼイションが溶け込んでいるからほとんどの曲は30分近くにふくらみ、音は無限にamplifiedされていた。 「要らないかも(笑)」と影男から直接ライヴ前に耳栓を手渡しされたが、どうしてどうして、やはりエレクトリック・ギターの音は特に増幅。 とりわけ影男のギターは柔和な表情とは別人の熾烈模様で、開演後の入場ゆえに耳栓が配布されなかったのか最前列の席に座って鑑賞していた観客がエレキの音が持続するたびに耳を押さえていたのも理解できる。 だがどんなにラウドであっても研ぎ澄まされた響きで覚醒。リアル・サイケデリックの光が音から放射されていた。 曲のメリハリと輪郭を付けるコシの強い音で歌心がゆっくりと加速する松枝のベース・プレイも ますます冴えわたっていた。 志村のドラミングも見事にフィット。 ツボを突くタイミングでスネアやシンバルを叩き、シンプルなリズムのビートの反復もインプロヴィゼイションと思われるパートも実に味わい深かった。 この日だけのゲスト参加というのがたいへんもったいない演奏で、また水晶の舟でプレイしてほしいと切に願う。 終演後のメンバーとの談笑も含めて、すべてが深く内面に入ってきて解き放たれた。 僕にとってはまさに救いの一夜だった。 (行川和彦氏/音楽ライター) |